小諸なる古城のほとり

(長野県荒堀夜明かし念仏の記録)

 島崎藤村の処女作「破戒」の主人公丑松のモデルは小諸市荒堀部落の三味線屋の
息子だと言われている。
 「破戒」には一行も出てこないが、この荒堀部落に一遍上人以来といわれる素朴な
夜明かしで踊り続ける珍しい「夜明かし念仏」が残されていた。(小諸市無形文化財)
 九尺四寸のふきぬけ屋形の中に二台の太鼓が並び二人の導師がそれを打ち続け、
その太鼓に向かって12人の講中が太鼓のまわりを練り回る。見世物的なものは一切な
い、己の内なるものを語り続けるような念仏である。
 その由来を古老の人たちに尋ねているうちに、藤村の「破戒」の丑松の陰りよりも深
く厚い部落差別の歴史が走馬灯のように語られた。
 村の女性たちの観音信仰を抑圧した小諸藩、そして石仏のかわいい観音がいまだに
狭い塀の中にとじこめられていた。
 また寺の中の大名、百姓、町人と明らかに差別された場所に置かれている部落の人
たちの位牌、そして恐るべき差別戒名の群像、僮僕(めしつかい)、僕男、皮女・・・・・
仏の前では平等だと説いてきた仏法の使徒たちの用いていい言葉かと叫びたくなる。
 そういう差別に対して、荒堀の先祖たちはされっぱなしではなく、たくましく大らかに生
き続けていた事が古老の話に出てくる。小諸藩士ではどうしようもない熊を柔で投げ飛
ばした新一郎さんの話、加賀百万石の行列を止めてしまった八人衆の話、能楽が盛ん
だった頃の話、彦根藩の士をかくまった話。
 また荒堀の人たちは刑場に残された人、往来の行き倒れの人、引き裂かれた恋人た
ち、それら幸薄い人が亡くなると、喜んで自分の墓に迎い入れた。
 土の中でいだきしめる優しさをずっと持ち続けてきたのだった。
 夜明かし念仏を部落民衆の文化、魂の唄として描いている。



(1979年作品。製作・監督 盛善吉。25分、カラー。)

○ 16mm・カラー・20分
○ 貸出料 … 10,000円


       
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